命は守られるか 関東大震災100年 ④ 家庭に備蓄「自助」の意識で

大粒の雨が屋根を打ち、汗がを伝う。8月9日、首都直下地震を想定した避難所開設訓練が、東京都東大和市の市立第五中学校体育館で行われた。蒸し暑さの中で、市職員らが小さく畳まれたシートを収納袋から取り出すと、次々とキューブ型のテントが組み立てられていった。
わずか30分。体育館には12個のテントが並び、中に簡易ベッドも据えられた。参加した市民ら十数人は職員とテントの広さや寝心地を確認した。「いざというときは自分で」。参加者は「自助」の意識を口にした。
首都直下地震が発生すれば、東大和市のような多摩地域を含め都内では大きな被害が予想される。なかでも「都心南部直下地震」(マグニチュード7・3)では、震度6強以上の揺れが23区の約6割に広がり、建物被害は19万4431棟、死者は6148人、避難者は約299万人に上ると想定されている。
避難所はこうした地震で行き場を失った住民らが最低限の生活を維持できる空間だ。都内では令和4年4月時点で約3200カ所が確保され、東日本大震災が発生した翌年の平成24年から約300カ所増えた。
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ただ、建物の崩落などで道路が塞がれれば、避難所にたどり着けない。都内には昭和56年5月以前の旧耐震基準で建設されたビルも少なくなく、建物の倒壊が人的被害を拡大させる恐れもある。
平成30年の大阪北部地震では、大阪府高槻市で登校中の小学4年の女児がプール脇のブロック塀の下敷きになって死亡した。建造物の安全性確保は、喫緊の課題だ。
都のデータによると、大規模建築物などの都が所管する建築物779棟のうち、震度6強の地震で倒壊や崩壊の恐れが「高い」または「ある」ものが令和4年度末時点で190棟に上る。建て替えや改修工事は建物所有者が行う必要があり、都の担当者は「助成などの支援をしているが、対応にはある程度の時間が必要」と頭を悩ませる。
厚生労働省のデータによると、全国で令和3年の病院の耐震化率は78・7%で2割近くの病院が震度6強程度の地震により倒壊・崩壊する恐れがあるとされる。医療現場の対応も急務だ。
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避難所の確保や建築物の耐震化とともに大切なのは、「自助」の意識による備えだ。大地震の発生後は近所のスーパーやコンビニが利用できなくなる事態も予想され、備蓄も一つの自助となる。
ただ、食料や水を備蓄している人の割合は平成7年の阪神大震災や19年の新潟県中越沖地震など、大きな地震が発生すると高くなるが、時間の経過とともに低下する傾向にある。内閣府の調査では、23年の東日本大震災後は46・6%(25年)まで増えたが、令和4年は40・8%に減少した。
食料だけでなく、電気やガスといったライフラインの途絶に備え、カセットコンロや懐中電灯などの準備も欠かせない。
都は令和3年に、家族構成や居住形態をもとに必要な食料や生活用品を量とともに提示する「東京備蓄ナビ」をウェブ上に開設した。ただ、担当者によると利用者数は伸び悩んでいるという。
都幹部は口にする。
「地震はいつ起きるかわからない。『自助』の意識で常に備えてもらわなければならない」

■福和伸夫名古屋大名誉教授「民間のブロック塀対策急げ」
緊急輸送道路は震災時に避難や救急消火活動を支える重要な道路だが、沿道の建物の耐震化は進んでいない。昭和56年5月以前の旧耐震基準で建てられた建物もある。震度6強以上の激しい揺れで倒壊する危険もあるため、震災時に避難路が機能しない可能性もある。
ブロック塀が倒壊し犠牲者が出た大阪北部地震(平成30年)を契機に、学校や公共施設では危険なブロック塀の撤去が進んだ。だが、民間の施設や住宅では撤去費用などの問題もあり、ほとんど対策が進んでいない。少なくとも、住民に危険を知らせるマークをブロック塀に貼付するなどの対策を講じるべきだろう。
安全な避難経路の確保は急務だが、地域のつながりが弱く、高齢の単身世帯が多い東京では、安否確認などをどうするかといった課題もある。

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