【関東大震災から100年】いまあの大震災が起きたら…都市の火災対策は?

関東大震災では10万5385人もの人が亡くなりましたが、そのうち火災による死者が9割近くを占めています。都市で発生する地震災害で火災がいかに恐ろしいかを如実に示す結果となりました。あれから100年。現代の都市はかつてように火災による被害が広がってしまうのでしょうか?
内閣府のまとめた首都直下地震の被害想定では、倒壊した家屋、工場や店舗などの火気、燃料などから約500~2000箇所で同時に出火するとしています。主な出火原因はストーブやコンロ、電熱器具の転倒などによるもので、住民らによる初期消火活動や消防活動によって多くが消火されるものの、100~600箇所で木造建物が延焼を続け、東京の環状6号線から8号線の沿線付近に広がっている木造住宅の密集市街地などを中心に大規模な火災になり、約4万棟~約41万棟が焼失し、最悪約1万6000人が死亡する想定だとしています。この100年で、日本の消防力は上がってこなかったのでしょうか?
東京大学の廣井悠教授(都市防災が専門)によると、関東大震災では東京市(当時)で1万世帯当たりに2.77件の火災が発生。1995年の阪神淡路大震災では、神戸市で1万世帯あたりに3.0件の火災が発生しました。その後は火災対策も進んだことなどから、最近の大地震で震度6強以上の揺れを観測したエリアでは、2004年の中越地震では1万世帯あたり1.2件、2011年の東日本大震災では0.44件、2016年の熊本地震では0.24件となっています。地震の発生時間なども影響するので断定はできないものの、火災の発生率そのものは低くなっている傾向にあります。
この背景としては揺れに対する対策の強化が考えられます。阪神淡路大震災以降、ガスの対策として地震の揺れが起きるとガスの供給が自動的に止まるマイコンメーターがほぼすべての家庭に普及しました。また、火器器具には転倒時の出火防止装置がつくようになり、一定以上の揺れを感知して電気をストップする感電ブレーカーも広まってきています。さらに、建築物も燃えにくい材料を使うようになってきていることもあげられます。
しかし、1万世帯当たりの火災の出火率がいかに低くなっても、首都周辺などの人口の集中度はとどまるところを知りません。廣井教授は、「人口が増えれば必然的に火災の発生件数も増えることになり、火災の件数は決して少なくなったとは言えない」と指摘します人口が多く集中する地域では地震が起きると同時に多数の火災が発生してしまうのです。近い将来の大地震時においては、関東大震災を上回る出火件数になる可能性も十分にあります。消防署などでは高性能のポンプ車を配備しているなど、火を消すためのテクノロジーの能力自体はめまぐるしく進化してきています。しかし、1件の火災が発生した場合に複数の消防車が集結して火を消す現在の消防組織は、同時に同じエリア内で多数の火災が発生した場合、消すことができる件数はどうしても限定されてしまうのです。
さらに、木造建設物が集中する木造密集地域で火災が発生するとどうしても燃え広がって大規模な火災になってしまう危険性があります。東京都では木密地域の解消にむけて、防災力を向上する取り組みを集中的に進めています。補助金を投入するなどして、老朽化した建築物の建て替えや不燃化を促進するとともに、道路や公園などの公共施設を木造住宅密集地内に整備することで、できるだけ火災が燃え広がらない構造に変えていこうというものです。東京都の木造密集地域は、2016年にはJR山手線外周部を中心に約13,000haに広がっていましたが、2020年には約8,600haにまで減少しました。それでもすべての地域で解消するまでにはまだまだ遠い道のりとなっています。
大地震で火災が発生した場合に一番大切なのは、近くにいる人たちが、火がまだ小さいうちに消し止めることです。関東大震災でもこの地域住民の力によって多くの火災が消し止められました。東京市全体で発生した134件の火災のうち、42.5%が初期消火されていましたが、その半数は地域住民の手で消火されていたというのです。しかし、その地域の力が必ずしも進化しているとは言えない状況だと廣井教授は指摘します。「初期消火で重要なのは、まずは火災の情報を共有したうえで、バケツで水をかけたり消火器を使って消し止めること。地域の人たちがこうした行動に出ることが重要ですが、地域の状況をみると少子高齢化社会に加え、地域コミュニティについても関東大震災当時と比べて衰退しているところもありそうです。そういった意味では、地域の中で消火活動をするための能力というものはもしかしたら下がってるかもしれません。」そして、首都直下地震などで火災による被害を減らすためには、みんなで力を合わせて火を消す地域消防力を高めるやり方を探るべきだといいます。(廣井教授)「これは1人2人ではできない話なので、町内会とか自主防災組織などで、地域の中で火災が起きたらどう対応すればよいか、みんなで考えるような取り組みがとても重要だと思います。」
一方、建物が高層化する現代の都市ならではの火災の危険性もあるといいます。東日本大震災では、中高層建物で火災が多く発生しました。揺れによる火災の約4割は4階以上の建物で発生していたというのです。さらに、震度6強以上の揺れが襲ってきた場合、防災設備や消火設備が強い揺れによって機能しなくなるケースが指摘されています。阪神淡路大震災では、中高層建物のスプリンクラーの約8割が地震で使えなくなったということです。平時には中高層建物の火災安全性能を確保してくれる消火設備や防火設備が、地震による揺れで機能不全を起こすとすると、中高層建築物での火災による被害は深刻なものとなる可能性もあります。
大都市の地震による火災で懸念すべきことは、建物倒壊とか、ブロック塀が倒れることによって道路が閉塞して使えなくなることだと廣井教授は指摘します。「迫りくる火災に挟まれたり、道路閉塞によって逃げ道を失ってしまい、そして逃げられないまま火に囲まれて亡くなるという、そういう事態が現在で懸念される被害像の1パターンかなと思います。」
恐ろしい火災の魔の手から逃れるため、地震が起きたらすぐに避難すればよいのでしょうか?廣井教授は「風水害とか津波とかと違って、早めの避難が必ずしも最善とは言えないのが火災からの避難の難しいところだ」と指摘します。地震の発生後、飛び火などで火災が燃え広がらないようにするため、飛んできた火の粉を消したり、燃えそうな洗濯物を取り込む、窓を閉めたりする、そういう延焼防止活動をすることで火災のひろがりを防ぐことができるといいます。(廣井教授)「地震火災が発生したら、地域の中でやるべきことがたくさんあるんですが、それを全部捨ててすぐ逃げてしまうと、被害はかえって大きくなってしまうかもしれません。まずは火災の情報を共有する。そして1人では逃げにくい高齢者の方、要援護者の方たちには周囲が支援しながらいち早く避難してもらいつつ、みんなが助けあって火災を防ぎ、そして逃げるべきタイミングでみんなが避難する。地域の中で地震後の火災への対応の役割分担をぜひとも考えていただきたい」
現代の都市は、関東大震災のときと比べて道路も広くなり、安全な避難場所もたくさんできるなど対策は進んできました。しかし、同時に多くの火災が発生する地震をほとんどの人が体験したことがないことも大きな課題です。地震後にパニックになって多くの人が逃げ惑うと大混乱が発生します。地震発生後に地域の中でしっかり協力して緊急対応を行っていくためには、災害の発生前に、地域で課題を共有して議論しておかなければ、こうした行動はできるものではありません。行政任せではない、地域の防災をしっかり見つめることが求められています。

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