「ルフィ」と出会い犯罪の道へ 懲役12年「ゾロ」の転落人生

《5分後突入》「ルフィ」の指令は現場にいるかのように具体的だった-。一連の広域強盗事件で、京都市内の貴金属店で高級腕時計を奪ったとして、強盗罪などで懲役12年の判決を受けた伊藤一輝被告(30)。8~9月に開かれた大阪地裁の裁判員裁判で、ルフィと通信アプリでやりとりした詳細が明らかになった。人生の再起を図って「闇バイト」に応募し、犯罪グループの一端を担った伊藤被告。最終的には若者を次々と闇バイトに引き入れる〝首謀者〟となっていった。
実行役の「ボス」に
ルフィ《準備できたら教えて》
被告《いけます》
ルフィ《5分後突入》
被告《了解です!》
ルフィ《強行突破で頼みます。伊藤君だけ生き残るようにします》
昨年3月中旬。ルフィの指示のもと、伊藤被告はほかの実行役とともに、大津市内の質屋にコンクリートブロックを投げつけた。
一連の事件では、フィリピンから強制送還された今村磨人(きよと)被告(39)=強盗罪などで起訴=がルフィを名乗っていたとされる。
伊藤被告はツイッター(現エックス)で闇バイトに応募。別の人物を介してルフィとつながり、秘匿性が高い通信アプリ「テレグラム」で直接指示を受けるようになった。ルフィは、組織のトップと自称。伊藤被告を実行役の「ボス」に指名した。
被告《伊藤は本名なので、違う名前で呼んでもらえますか》
ルフィ《何にしますかゾロ?》
ルフィと同じ人気漫画に登場するキャラクター名が、伊藤被告のニックネームに決まった。
募らせた不信感
事前に質店の住所や店内の写真を送られ、「店のオーナーが内部協力者」とも伝えられた。しかし、ガラス扉は割れず、店から通報を受けた警察官に逮捕された。
翌月に保釈され、ルフィに事情を問いただすと、「オーナーが裏切った」と釈明。再び犯罪への加担を提案してきた。断ると、次は闇バイト名目で実行役を募る役割を任された。
「紹介するだけで報酬をもらえるなら」(伊藤被告の公判供述)。ツイッターで高額報酬をうたって勧誘。昨年5月、伊藤被告が集めた20~40代の3人が実行役や運転手役となって京都市内の貴金属店に押し入り、ロレックスの腕時計41点(約7千万円相当)を奪った。
報酬65万円を受け取ったが、腕時計の大半は何者かに強奪された。不信感を募らせ、ようやく連絡を絶った。
「犯罪傾向は深化」
被告人質問などによると、伊藤被告は土木会社で働いた後に独立。多いときは1億円程度の売り上げがあった。
しかし、新型コロナウイルス禍などで収入が減少。取引先や知人への借金が600万~700万円に膨れ上がった。
「1発で高額報酬が得られれば、また元の場所に戻れる」。それが闇バイトに手を出した動機だった。
ルフィから指示を受けたと明かしたのは大津と京都の2事件。だが、ルフィとの関係を絶った後も、犯罪への関与は続いた。
貴金属店強盗の約2週間後には大阪市内のパチンコ店で店員が催涙スプレーをかけられ、売上金が入ったバッグを奪われそうになる事件が発生。この事件にルフィの関与はなく、伊藤被告自身が持ちかけ、交流サイト(SNS)で実行役を集めていた。
公判で弁護側は、「ルフィへの従属的な立場だった」と主張したが、9月1日の判決公判で、岩崎邦生裁判長は、「犯行方法を詳細に指示しており、実行役との関係で主導的な役割を果たしたことは明らか」と退けた。
次々と事件に関与し、「他律的なものから自律的、自発的なものへと変化し、犯罪傾向の深化を示している」と指摘。闇バイトの勧誘も「若者を次々と犯罪に引き入れた」と非難した。
逮捕監禁致傷、強盗致傷、強盗、営利略取…。4つの事件(6罪名)で有罪と認定された伊藤被告。判決後、岩崎裁判長は「自分の犯罪が被害者にどれほどの恐怖や喪失を与えるのかを考えていたのか疑問だ」と苦言を呈した。(地主明世)

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