36人が死亡、32人が重軽傷を負った京都アニメーション第1スタジオ(京都市伏見区)の放火殺人事件で、殺人などの罪に問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第4回公判が11日、京都地裁(増田啓祐裁判長)であった。前回の審理に引き続いて被告人質問があり、青葉被告側が犯行動機に挙げた「『闇の人物』への反撃」に関連し、青葉被告本人が「闇の人物」について、「自分の政治的な考えを通せる人物」などと詳細を説明した。弁護側の質問に答えた。
青葉被告は、2012年に起こしたコンビニ強盗事件で3年余り、刑務所で服役していたとされる。被告人質問での青葉被告の説明では、服役中に相部屋になった受刑者から、過去の自分の行動を把握されていたことがあったという。青葉被告は、その理由について「警察の公安部に尾行されていた」と考え、「公安部には『闇の人物』が指示を送っていた」との認識を持った、という。
青葉被告によると、「闇の人物」は「ナンバー2」と呼ばれ、「ハリウッドやシリコンバレーに人脈がある」▽「官僚というレベルの人にも人脈がある」―とした上で、「闇の世界にいるフィクサーみたいな人」であり、「ある程度自分の政治的な考えを通せる人」だと想像していた、と説明した。
青葉被告は、「闇の人物」を刑務所で一度だけ見たことがある、と述べた。「なぜかは分からないが、刑務官が『あの人がナンバー2』と紹介した。ナンバー2が歩いてきて、問題を起こしている私の刑務官に、よろしくお願いしますと頭を下げた」と説明した。
闇の人物が刑務官に頭を下げた理由を弁護側から問われ、青葉被告は「当時自分は尊大な態度をとっていた。ちゃんと頭を下げることをしなさいということを示したのではないか。人の意見に耳をかたむけたり、頭を下げたりという姿勢を示した。小説って個人技のところもある。単独プレーのところもある。もう少し別な視点で、そういうことにちゃんと頭下げてやれということだと思う。自分がこうしたいというだけでは無理と見かねて、そういう姿勢を示したのではないか」と、主張を繰り返した。
弁護側は5日の初公判で、犯行は「青葉被告の人生をもてあそんだ『闇の人物』への反撃だった」と主張。事件当時は妄想性障害の影響によって、心神喪失か心神耗弱の状態だったとして、無罪か刑の減軽を求めた。「闇の人物」について、青葉被告の認識の中では、京アニに応募した自らの小説を落選させ、「京アニと一体となって嫌がらせをする」存在だったと説明。「闇の人物」からは逃れられないと苦しんだ末、「『闇の人物』と京アニを消滅させるため」に放火事件を起こした、と述べていた。
青葉被告は同日の罪状認否の際、「事件当時は、こうするしかないと思っていました」と話していた。
起訴状によると、青葉被告は2019年7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区の京アニ第1スタジオに正面玄関から侵入し、ガソリンを社員に浴びせてライターで火を付けて建物を全焼させ、屋内にいた社員70人のうち36人を殺害、32人に重軽傷を負わせた、などとしている。
検察側は、妄想に支配された末の犯行ではなく、「筋違いの恨みによる復讐」と指摘。被告には事件当時、完全責任能力があったと主張している。