神戸市北区で平成29年7月、祖父母や近隣住民ら計5人を殺傷したとして、殺人などの罪に問われ、1審神戸地裁の裁判員裁判で無罪判決を受けた無職の男性被告(32)の控訴審判決公判が25日、大阪高裁で開かれ、坪井祐子裁判長は検察側の控訴を棄却した。1審に続き、精神疾患による妄想などの影響で心神喪失状態だった疑いがあるとして、刑事責任能力を否定した。
争点は、妄想下においても善悪を判断する能力や、自身の行動をコントロールする能力が残っていたか否か。犯行内容や、人間と同じ姿で自我や感情を持たない「哲学的ゾンビ」が周囲にいるとの妄想を被告が抱いていたことに争いはなかった。起訴前に精神鑑定した医師2人の意見は対立し、1審判決では「善悪などを判断する能力がなかった」とした医師の鑑定を重視した。
控訴審では医師2人に改めて尋問。検察側は、被害者が哲学的ゾンビではなく人間の可能性があると被告は認識していたと訴えたが、坪井裁判長は尋問を踏まえても検察側の重視する鑑定は「(もう一方を)覆すほどの根拠はない」と指摘。1審判決に「不合理な点はない」と結論付けた。
被告は29年7月16日朝、祖父母=いずれも当時(83)=と近所の女性=同(79)=を包丁で刺すなどして殺害し、母親ら2人にもけがをさせた。令和3年11月の1審判決は、妄想の「圧倒的影響下」で犯行に及んだ疑いを払拭できないと判断していた。
殺害された女性の長男は「本日の判決は私たちの心をもう一度殺すに等しいものでした。妄想を抱いていたとしても、それで人を殺して罰せられない理由が分かりません」とコメントした。