戸籍上の性別変更に必要な手術規定、最高裁が違憲判断の可能性…大法廷が年内にも結論示す

性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するのに、生殖能力をなくす手術を事実上の要件とした特例法の規定が憲法に反するかどうかが争われた家事審判の弁論が27日、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)で開かれた。手術なしでの性別変更を求めている申立人側は「規定は性別のあり方が尊重される権利を侵害し、憲法違反だ」と主張した。大法廷は年内にも憲法判断を示す見通し。
当事者側 「過度な負担、人権侵害」

性別変更の申し立てで最高裁が弁論を開いたのは初めて。家事審判の手続きは本来非公開だが、重要な憲法判断を示すにあたり、公開の場で申立人側の主張を聞く必要性があると判断したとみられ、大法廷が「違憲」と結論づける可能性がある。
2004年施行の性同一性障害特例法は、戸籍上の性別を変更するには、医師の診断を受け、「元の性別での生殖機能を永続的に欠く状態」であることなどを要件としている。元の性別の生殖機能で子が生まれることによる混乱を避けるためで、一般的には卵巣や精巣などの摘出手術が必要だとされている。
今回の家事審判では、男性の体に生まれた西日本在住の人が、手術を受けずに戸籍上の性別を女性に変更するよう申し立てた。20年5月に家裁が、同9月に高裁支部がそれぞれ申し立てを退けたため、申立人が最高裁に特別抗告していた。
この日の弁論で、代理人の南和行弁護士らは、申立人が長年ホルモン療法を受け、女性として社会生活を送っているとし、「手術を受けるなら、身体的な苦痛や後遺症の危険、経済的な負担を自己の責任で引き受けなければならない」と主張した。
その上で、法的な性別変更と引き換えに手術を求めることは「人権を侵害し、極端に過度な負担を強いている」と指摘。幸福追求権を定めた憲法13条や、法の下の平等を保障する憲法14条1項に反すると訴えた。
南弁護士らによると、弁論前の26日には申立人の意見を直接聞く非公開の審問が開かれた。申立人は「性別変更が容易でないことは承知しているが、男性の性では生きていけない。性別変更を認めてほしい」と訴えたといい、この日の弁論後には「公正な判断がなされることを心より願っている」とのコメントを出した。
最高裁は19年1月、当時の第2小法廷が規定を「合憲」と判断したが、4人の裁判官のうち、2人は補足意見で「手術を受けるかどうかは本来、自由な意思に委ねられるもので、違憲の疑いが生じている」と指摘していた。
22年までに1万2000人変更

司法統計によると、性同一性障害特例法に基づいて性別変更した人は2004年の施行から22年までに約1万2000人に上る。手術要件の是非を巡っては、当事者や関係者の間で意見が激しく対立している。
心と体の性が一致しない「トランスジェンダー」の当事者らは26日、東京・霞が関で記者会見し、戸籍上は女性で、男性として生活を送る杉山文野さん(42)が「望んでいない者にまで手術を強いる現行法は人権侵害だ」と訴えた。
一方、手術要件の撤廃に反対する複数の団体は同日、「要件が違憲となれば、男性器のある女性が女性スペースに入ることが可能になったり、出産する男性が出てきたりして社会が混乱する」として、違憲判断をしないよう求める約1万5000人分の署名を最高裁に提出した。

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