永田町では「解散風」が吹いているようだ。岸田文雄首相が経済対策で「税収増を国民に還元する」と述べて「減税方針」を打ち出したことに対し、自民党の森山裕総務会長は「税に関することは国民の審判を仰がなければならない」と述べて、減税が解散の大義になるとの考えを示した。
減税で信を問うというのはあまり聞いたことがない。理由は、野党も国民も反対する人は誰もいないからだ。消費税の増税とか、社会保障の充実のために国民に痛みを分かち合ってほしいと訴えて解散するなら分かるのだが。
そもそも、岸田首相が言っている「税収増の国民への還元」は本当に「減税方針」なのかという疑問もある。
「賃上げ税制の減税制度の強化」「特許取得の減税制度」「ストックオプションの減税措置」などが挙がっているが、どちらかと言うと高額所得者向けで、一般サラリーマンがどれだけ恩恵を受けられるのか分からない。だから、「偽減税だ」と批判する人もいる。
一方で、岸田政権は防衛力強化のために法人税、所得税、たばこ税への増税方針案を、また少子化対策のために社会保険料の増額という実質増税案を、それぞれいったん打ち出したが、あまり評判は良くない。
これについて、自民党の茂木敏充幹事長は2日の講演で、防衛費増額と少子化対策の財源について、「安易な増税にすぐ走るということは慎重でなければならない」と述べた。
ネット上では、岸田首相に「増税メガネ」というあだ名をつけて盛り上がっているらしいのだが、これからの選挙シーズンに向けて、岸田政権としては「増税」イメージは払拭したいだろう。
問題は、この状況で解散するかどうかだ。
岸田首相は今月20日に臨時国会を召集し、経済対策を盛り込んだ補正予算案を提出するが、成立するのは早くて来月末。まあやろうと思えば年内解散総選挙はギリギリやれるスケジュールだ。
解散した場合の争点について、自民党が「減税」にしたら、野党は「いや、減税ではありません。偽減税です。むしろ増税するつもりです」と反論するだろう。この構図は自民党にとってよろしくないのではないか。自民党がウソをついているように思われたら選挙は戦いにくくなるからだ。
岸田首相は解散などせず、やるべきことをきちんとやって、1期3年で辞めるのがカッコいいと筆者は思う。どうしても解散したいなら「正直に」言うことだ。本当に減税するなら、分かりやすく説明しなければいけない。
何より、岸田政権の最重要課題である「防衛力強化」と「少子化対策」について、なぜ必要で、そのために何をするのか説明すべきだ。当面は税収増を財源に回していいと思うが、やはり恒久財源は必要だ。国民がどれくらい負担することになるのか、きちんと示して信を問うべきだ。 (フジテレビ上席解説委員 平井文夫)