「クルド人の若者はどうしてもクルド人同士で集団をつくってしまう」。埼玉県川口市に住むクルド人の男子学生(19)はそう話した。在留外国人が300万人を超えて過去最高となる中、必然的に日本語指導が必要な子供も増えている。彼らが今後も日本で暮らす以上、日本の言葉やルールを身につけるには一定の教育が必要だが、そこにも文化や習慣の違いという大きな壁がある。今、欧州では「移民問題」は2世、3世の問題へと移っている。
両親はカタコトの日本語
男子学生は2歳のとき、先に来日していた父親を頼って母親と来日。トルコ生まれだが日本育ちで事実上の「移民2世」だ。一家は難民認定申請中で、入管施設への収容を一時的に解かれた「仮放免」の状態が長年続いているという。
市内の市立小中学校、県立高校を卒業し、現在は都内に通学する。クルド語やトルコ語は聞ける程度で、言葉は読み書き含めすべて日本語だ。
解体工の父親と、母親は今もカタコトの日本語しか使えず、家庭では込み入った相談事などは通じない。それでも父親が「おまえは日本語を覚えてきちんと学校に行け」と叱咤していたため、学校でも勉強を頑張ったという。
「同世代のクルド人の中には学校にも来ず、日本語ができない人がいる。だから自分はあまり付き合わなかった。彼らが日本語を使うのはコンビニくらいで、いつもクルド人で集まり、クルド人同士で騒いでいた」
暴走行為やあおり運転
同市内では近年、一部クルド人と地域住民との軋轢が表面化。中でも2世とみられる若者らによる車の暴走行為やあおり運転が市民の間に恐怖心すら与えている。
市内のクルド人支援者によると、中学生程度の男子が不登校状態になると、解体工などの父親は学校には行かせず、10代前半から自分の手伝いなどをさせるケースが多い。女子の場合は高校へは進学するものの、母親からは「自分は15歳で結婚した」などと早期の結婚を迫られ、社会に出る道を絶たれそうになることもある。
クルド人のトルコでの主な職業は羊飼いや農業、都市部の単純労働だ。親世代も学校教育を受けていないことが多く、教育に意義を見いだしづらい。来日しても祖国の言葉しか使えず、日本語が話せるようになった子供とのコミュニケーションが難しくなることもあるという。
男子学生は「日本人でも教育熱心と、そうでない家庭がある。学校をドロップアウトするかしないかは結局は親次第だと思う。僕は学校に行けと言ってくれた父親に感謝している」。
本当に教育すべきは
欧州の移民問題をめぐっては今年6月、フランスで大規模な暴動が発生、約1週間で約3500人が身柄拘束された。多くはアフリカ系の移民2世や3世だった。
スウェーデンでは、中東移民の子供たちがギャング集団を組織。若者同士で抗争するようになり、治安悪化で死者が続出している。
移民1世は努力して祖国へ送金するなど「故郷に錦を飾る」という動機から、貧しい生活でも頑張れた一方、2世、3世は格差や差別の固定化から、不満を募らせることが多いという。
日本では「移民政策」はとっていないが、法務省は8月、在留資格がない外国籍の子供に法務大臣が裁量で「在留特別許可」を与える方針を示した。強制送還の対象となりながら帰国を拒む「送還忌避者」のうち日本で生まれ、小中高校に通う子供約200人が対象となる。ただ、その家族も含むため、「不法滞在する一家の永住を認めるアリの一穴になる」という指摘もある。
川口市の男子学生やその一家も対象になっており、現在は手続きを終えて結果待ちという。男子学生はこの件については「審査中なので」と言葉少なだったが、在日クルド人についてはこう話した。
「日本の常識がわからない人が多いから問題を起こしてしまう。クルド人は親の言うことはよく聞くので、学校教育だけでなく、本当は親の教育こそが必要だと思う」