軒下などにできたハチの巣の駆除を巡り、業者から高額を請求されるトラブルが相次いでいる。ウェブサイトに記載された金額の数百倍を求められたケースもあり、全国の消費生活センターへの相談も増加。スズメバチの巣が大きくなって攻撃性の増す秋は、悪質業者にも遭遇しかねない。専門家らは「まずは自治体へ連絡し、適切な駆除方法を紹介してもらうのが安全だ」と注意を呼びかけている。(糸井裕哉)
「100万円はかかる」
茨城県の男性(48)は9月上旬、自宅2階の軒下に直径数十センチの大きなスズメバチの巣が出来ていることに気付いた。ウェブ検索で一番上に出てきた駆除業者のサイトを見ると、「最短10分で到着」「料金は550円から。追加料金一切なし」などの文言が並んでいた。
見積もりを頼むと、訪れた若い男性から「やばいでかさだ。100万円はかかる」とまくしたてられた。明細を見ると、「6600円」の基本料金に「1」が付け加えられ、1万6600円に。薬剤の代金だけで40万円弱に上っていた。最終的に示された金額は「削りに削って30万円」だった。
驚いて契約を断り、町役場に相談すると、職員に紹介された地元の養蜂場が2万円で駆除してくれた。男性は「サイトの出来栄えも良く、大丈夫だと思い込んでしまった。言われるがままに高額を支払う高齢者もいるはずだ」と振り返る。
低価格を強調するサイトも
各地の消費生活センターには同様の相談が寄せられている。中国地方の30歳代男性は「2200円から」というサイトの表示を見て駆除を依頼したところ、作業後に6万円を請求され、そのまま現金で支払ってしまった。中部地方の60歳代男性も「数千円なら」と契約したが、わずか5分程度の作業で4万円を請求されたという。
害虫駆除業者らでつくる公益社団法人「日本ペストコントロール協会」(東京)は「協会として金額を決めることはしていないが、脚立で手が届く範囲のスズメバチの巣なら、3万円程度が妥当だろう」と指摘する。
出張費込みで数千円以下という低価格を強調するサイトもあるが「基本料金」にすぎず、ハチや薬剤の種類などにかこつけて料金がどんどん加算されることも珍しくない。詳しい説明もなく作業が終了し、高額を請求されるケースもある。
サイトの中には業者への取り次ぎだけを行っているものもあるとみられる。同協会によると、紹介する業者の悪質性を審査しているサイトはほぼなく、トラブルに対する責任の所在も明確化されていないのが実情だという。
自治体に相談を
国民生活センターによると、害虫・害獣の駆除に伴う昨年度のトラブルの相談件数は1437件で、2013年度(368件)の約4倍に達した。害虫ごとの詳細な内訳はないが、ハチの相談も増えているという。
増加の背景には悪質なサイトの存在もあるとみられ、同センターはトラブルの回避策として「自治体への迅速な相談」を挙げる。無料での駆除や駆除時の補助金支給を行う自治体もあり、そうした制度がなくても、信頼できる業者を紹介してもらえるためだ。
駆除業務は契約書面が交付されない場合や、業者が現場を訪問して契約を結んだ場合はクーリングオフが可能だ。説明が虚偽だった時も契約を取り消せる。
消費者トラブルに詳しい染谷隆明弁護士は「極端な安さや割引を売りにするサイトには注意が必要だ。作業工程や料金体系を説明できない業者とも交渉すべきではない。複数の業者から見積もりを取った上で、納得がいかなければ支払わず、自治体や消費生活センターに相談してほしい」と話している。
ハチの巣 秋に最大化
国の統計では、過去5年間でハチが原因の死者は71人に上っている。このうち、昨年は20人が死亡。過去最多は1984年で、1年間で73人が亡くなった。
ハチの生態に詳しい玉川大の小野正人教授(昆虫機能利用学)によると、スズメバチは晩夏から秋に最も攻撃的になる。4月頃に作り始めた巣は9~10月頃に最大となり、直径が1メートル近くに達することも。その頃に誕生した新たな女王バチを守るため、働きバチは人間を含めて巣に近づく物体を敵とみなし、集団で攻撃する。
小野教授は「絶対に手で振り払わず、静かにゆっくり離れる。黒い色や強い香りにも反応するので注意が必要だ。過去に刺された経験がある場合はアナフィラキシーショックによる意識障害が起きる危険もある。刺されたら指で毒を体外に絞り出し、すぐに医療機関を受診してほしい」と指摘する。