「渋谷には来ないで下さい」と区長も言い始めたから、さあ大変…“迷惑イベント”になってしまったハロウィンについて

50歳の私にとって、子どもの頃の渋谷とは「若者の街」というより各色全部ごちゃ混ぜにしてまっ黒に成り果てた絵の具のような、猥雑な途中下車駅でした。
平均年齢がぐっと上がって素敵プレイスに変貌を遂げた渋谷
高校時代、日吉から鷺宮まで片道1時間半の通学の途中にあった渋谷は魅力的で、まだ小綺麗でもない宮益坂口を出てセガ直営のゲーセンに行き、センター街にもゲーセンがあり、宇田川の向こうには謎のグッズを売る東急ハンズと正体不明の外国人露店街があり、ほぼ毎日カラーギャングみたいな人が屈強な外国人と殴り合ってました。
その横にさらにゲーセンがあり、一通り遊び終わると道玄坂沿いビル地下にある桂花ラーメンを食べて帰る青春を送ったのがこのガキの街・渋谷でした。セガのゲーセンに行くための、聖地渋谷的な。遊ぶカネが、無くてね。ただ、友だちと渋谷でたむろしているだけで、楽しかった。
それから35年ほどが過ぎ、嫌味なほど洒落た高層ビルが立ち並び、ぐっと平均年齢が上がって着飾ったOLと出来の悪い若い酔客のコントラストが映える素敵プレイスに変貌を遂げたのであります。私が好きだったゲーセンは次々と姿を消したので、まるで棲家の森を焼かれた動物のように渋谷には仕事以外で足を向けることはなくなりました。
オサレな飯屋ができては潰れ、画期的な技術やサービスを引っ提げたベンチャー企業ができては潰れ、結局みんな五反田に逃げていくやつです。やったぜ。
ハロウィンパレードでの路上飲酒や暴力行為が年々エスカレート
その渋谷区が、最近文化発信地として世界的に知名度を広げたきっかけとなった要因のひとつは紛れもなく「渋谷で年一やってるよく分からない盛大なハロウィン仮装イベント」であります。外資系マーケティング会社の調査では、日本の魅力ある(来日したいと考える動機となる)イベントの堂々上位に「渋谷ハロウィン」が食い込んでいました。
でも、ハロウィンってそんなメジャーなイベントでしたっけ…?
そこへ、サウナ上がりに汗も流さず冷水に入るが如く渋谷区長の長谷部さんが出てきて「ハロウィン時期は、渋谷に来ないでください」とかアナウンスを始めたからさあ大変。
あれ?
おんどれは以前「ハロウィンを楽しむときは、ぜひ渋谷で」とか仰って誘致してませんでしたっけか。区長ご就任当初は、ハロウィンイベントのために更衣所まで設置して「さあ来いや!!」ぐらいの勢いだったのに。
ハロウィン万歳とまでは確かに言っていませんが、でもJR渋谷駅前のスクランブル交差点辺りを歩行者天国にしてストリート文化の発信地として盛り上げたい的なことは確かに仰って、歓迎っぽい雰囲気だったのは何だったのでしょうか。
悪く言えば、ハロウィンについては行政や地元区民に都合の良い盛り上がり方であってほしいという含意もあるのかもしれませんけれども、紐解くと、コロナ前の2018年ごろに発生した軽トラ横転事件を含め、ハロウィンパレードでの路上飲酒や暴力行為がエスカレートして、手が付けられなくなっているんだろうなという印象です。
渋谷区を横目で見るように池袋と蒲田が「どうぞウチで」
そしていまや、渋谷区がはっきりと「ハロウィンイベントは迷惑」と言い切り、マナー向上に手を焼いていたようなのですが、それを横目で見るように池袋や大田区蒲田が「ハロウィンやるならどうぞウチで」と言い始めたのは興味深い現象です。
池袋も蒲田も企業が企画する形でハロウィンイベントで発生する人流や清掃、治安などの管理を行って全体をコントロールする方向でのイベント立ち上げを検討しているのは興味深いです。大田区議の荻野稔さんもX(旧Twitter)で「当初から企業などがコストを支払って管理、警備や清掃など運用すれば良かったんだろうけど」とまで語っているのを見ると、周辺の自治体も渋谷でのハロウィンイベントは世界的に有名にはなったけど暴動化してしまって失敗、と判断しているようにも見えます。
渋谷区議の鈴木けんぽうさんは「(長谷部区長は就任当初)清掃活動や仮設トイレ・着替え場所の提供などを行って歓迎する姿勢を示していた」が「これが渋谷のハロウィンを悪化させる一因となっていた可能性は否定できず、長谷部区長は呼びかけやマナー啓発ではなく規制の強化等の直接的な抑止策を重視すべきだ」と説明しています。実際、2019年以降は路上や公園での飲酒を禁止する条例が渋谷区にでき、また、近隣の店に酒類の販売を控えるよう要請を出したりしています。区でも相応に検討して、やることはやってるんですね、という。まあねえ。それでいて、なかなかうまくいかないのは実に悩ましいところです。
渋谷ハロウィンの行き過ぎた状況に批判が集まるように
マナーを知らない客は適当にゴミは捨てるし酒飲んで喧嘩するし適当な場所でセックスするしで瞬間最大風速マックスの暴風雨的に治安が悪化することが問題で、それと同じことが渋谷区のハロウィンでも起きているんだろうとも思います。
毎年、花火大会になると見物客がより良い場所で見ようと無断でワイの管理物件の屋上に不法侵入をして、住人や外国人と喧嘩になって警察沙汰になるので、業を煮やして柵を建てたりするぐらいですからね。
さらには、巷でもいわゆる観光公害、オーバーツーリズムの文脈でも渋谷ハロウィンの行き過ぎた状況に批判が集まるようにもなっていました。まあ別に渋谷だけが悪いわけでもなく、例えば外国人にとって有名な観光スポットとして渋谷ハロウィンと並んで上位に入る京都や鎌倉などでは、日本で違法な白タクを使い外国人保有の民泊に宿泊し食事もコンビニ弁当で済ませるような、カネのない事実上の「ドブ客」である外国人観光客が増えすぎて問題になっています。
特に、地元にカネを落とさない迷惑客が殺到する事案はメディアでも典型的な観光公害の一種としてかなり取り沙汰されるようになりました。
多くの人が楽しんでくれる祭典にするためには
前述の池袋や蒲田などの取り組みというのも、渋谷のドブ客イベントとなり果てたハロウィンの反省として、先回りして企業を巻き込みイベント自体を管理する文化イベントとしての自律と採算性を目指したものなのでしょう。裏を返せば、ドブ客対策は客にカネを落とさせるか、カネを持っている客だけを相手にするかといったパターンよりも、より多くの人が安全に楽しんでくれる祭典にするために、企業がカネと治安とを担保する仕組みにすることで何とかしようという取り組みにするほかないのだろうと思います。
態度の悪い花火見物客も観光地に殺到するドブ客も、渋谷ハロウィンで酔っぱらって殴り合いをする奴らも、基本的には何かのきっかけで街に繰り出して友達と騒ぎたいというのが純粋な動機でしょうし、カネが無ければ無いなりに楽しみたいってだけなんだとは思うんですよ。
思い返せば、35年前高校生であった私が渋谷のゲーセンでウロウロしていたのも、放課後カネはないけど好きなことをして友達と遊んでいたいから寄り道して文化的な薫りのする渋谷で時間を過ごしていたという気持ちしかなかったように思います。
愛着を持つほどの文化的背景があるからこそ、地域は栄える
時を経て、心技体揃った立派なおっさんとなった現在は、やっぱり渋谷を懐かしく思ってオフィスにカネを掛けたり、手がけているプロジェクトの広告を渋谷に出そうとしたり、放流した稚魚が脂の乘った鮭として流れる渋谷川を遡上してるんじゃないかってぐらいに愛着はあります。確かにガキの頃はカネは無かったけど、渋谷を歩いているだけで楽しかったという記憶があるからこそ、いま渋谷にカネを突っ込む企画にゴーを出すわけだし、蒲田でハロウィンやりますと言われてもセガの開発拠点のあった駅の近くだなと思い出すだけであんまりピンと来ないんすよね。
相応の年数培ってきた文化ってそういうものですから、新しい人が、蒲田で新しい文化を発信してくれる日が来るといいなとも思います。
若者文化の発信地としてのオルタナティブというのは、その地域に再訪したり投資したりしてくれるほど愛着を持つほどの文化的背景があるからこそ、数年ではなく数十年の時を経て地域は栄えるのだという面はあるんじゃないかと思うんですよね。
そんな気持ちで渋谷区役所を訪問した際、某副区長が私の組織上のボスである新潟大学教授の鈴木正朝さんを激しくDISって街づくりの企画対応どころではなくなるという素敵な事案もありつつ、渋谷に根を張る東急グループが渋谷で乗り継がずに直通運転をしてしまう路線を増やしたことでターミナル駅としてのこの地にも試練が訪れています。いまや、渋谷が渋谷である必要が無くなりつつあるのはちょっと残念なことなんですよね。やはり、街の発展とは、そこに住む人の想いが積み重なった歴史に裏打ちされた文化による「この街でなくちゃいけない」という何かが大事なんじゃないかと思ったりもします。セガのゲーセンとか。
(山本 一郎)

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