「あの時に焦って連絡先を交換してしまったのが間違いでした……」
深山陽子さん(仮名・23)が振り返るのは、最近増えているという日傘をめぐるトラブルだ。元警視庁刑事の村田玲さんが解説する。
「最近は、以前に比べて男性が日傘を利用している姿も日常となるくらいの猛暑と日差しです。そんな中、“日傘が当たったと言われた”という相談が増えているんです。中でも問題になっているのが、いわゆる“当たり屋”と呼ばれるようなケースなんです」
「日傘が目に刺さった」
なんでも“日傘当たり屋”が存在するという。いったいどういうことなのか。冒頭の深山さんに被害を聞くと、その実態が見えてきた。
「品川駅の高輪口から地上に出るときに、日傘を差したんです。少し歩いた横断歩道で突然呼び止められて振り返ると、40代くらいの男性が目を押さえて立っていました。聞くと“あんたが日傘を開く時に目に刺さった”と言うんです。近くに眼科があるのを知っていたので“ご一緒しましょう”と伝えると、新幹線の時間に間に合わないからとりあえず連絡先を教えてくれ、と言われて電話番号の交換をしたんです。男性はずっと目を押さえていてケガの様子も何も確認しないまま、慌ただしく別れました」
自分に落ち度があると思った深山さんは、男性の態度にはわずかな疑問を感じながらも連絡先を交換し、治療代の請求は覚悟していたという。しかし、深山さんを待っていたのはまったく別の要求だったのだ。
写真を撮られ、メッセージでも要求を…
「連絡先を交換した際に、急に私の顔を写真に撮ったんです。戸惑っていると“逃げられたら犯人と言って警察に突き出すため”と言われました。その夜、男性からショートメールが届いて、《眼科に行ったところ、失明の危険と言われました》と。返信に悩んでいると、着信が続けて3回ほどあり、その約10分後には同じメッセージがもう一度届きました。直接やりとりするのは怖いと思い、眼科の名前を教えてほしいと言うと、《個人情報をあなたに教えたくありません》と返ってきて。さらに《あなたの写真をもう一度送ってもらえますか?》と続けてきたんです」
これで相手の男性がおかしいと確信した深山さんは翌日警察に相談し、そのことを男性に伝えると連絡は途絶えたという。
「連絡がなくなったのはいいですけど、あの時に撮られた私の写真が今どうなっているのか。それにもし本当にケガを負わせていたとしたら。それは私の過失なので、あの時にちゃんと警察を呼んでいればよかった」
若い女性を狙った、このような相談事例はここ数年多いという。前出の村田さんは、
「発生する場所は新幹線が通っている駅が多いです。新幹線が来るから時間がないと言えば有無を言わせられない。
被害としてはお金を要求してくるケースが最も多く、そのほかには深山さんの場合のように写真を要求してきたり、個人的な関係を持とうとしてくるという話もよく聞きます。実際にそれでアダルトな写真の交換に応じてしまったり、肉体関係を強要されたという性被害も発生しています。
これは日傘に限らず、カバンや荷物でも自分の感触が届かないところで被害が発生する場合、つい相手の言うことを信じてしまう。その時は必ず第三者を呼んでください。相手が急いでいると言った場合は相手の連絡先を聞いて交番なりに行き、代理で被害届を出すこともできます。個人間で解決しようとしないことが大切です」
残暑も日差しもまだまだ厳しいこの季節。“日傘当たり屋”には注意したい。