業者証言 海外登録「抜け道」
陸上自衛隊が鉄くずにする前提で売り払った高機動車が海外に流出後、再び乗れる状態で国内に逆輸入されていた。「フィリピンで7、8両を仕入れ、日本に運んだ」。高機動車の逆輸入に携わった日本人男性は、詳細な経緯を語った。(丸山一樹、河津佑哉)
東海地方の中古車販売会社の男性経営者は約10年前、フィリピン・スービックで、オークションに出品された高機動車を見つけた。「自衛隊の車か」と興味を持ち、現地での移動用に購入した。
その後、日本への逆輸入を始めた。現地の法規に合わせて左ハンドルに改造された高機動車を1両70万~80万円で仕入れて、日本へ輸送。オークションなどを通じて380万円ほどで売った。輸送費を引いても1両あたり200万円を超す利益が出たという。
記者が今年2月、栃木県内の中古車店で確認した車両も「自分が輸入した」と話した。その言葉通り、税関が発行した自動車通関証明書には「輸入者」として社名が記載されていた。
経営者はこれまでに7、8両の高機動車をフィリピンから逆輸入したと証言し、「日本から解体された状態で輸出され、再び組み立てられた」と説明。購入時に受け取ったというフィリピン旧運輸通信省名の登録書類には「Rebuilt」(再生)、「MILITARY JEEP」(軍用ジープ型車)と記載されていた。
高機動車は自衛隊専用車両で、民間所有の車としてナンバー登録することはできない。陸自が売り払った後は廃車扱いとなり、再び登録することは不可能だ。
しかし、中古車輸出入に携わる業者らは「逆輸入が抜け道になる」と明かす。陸自の入札で売り払われた高機動車を、鉄くずとせずに自動車部品などとして輸出し、現地で新規の車として登録する。その後に逆輸入すると、日本で登録できるケースがあるという。
栃木県内で記者が確認した高機動車は、2019年4月、関東運輸局栃木運輸支局で登録されていた。
同運輸支局によると、個人や業者が海外から持ち込んだ車を登録するには、ブレーキなどが保安基準を満たすか、独立行政法人自動車技術総合機構の審査を通す必要がある。
栃木県内の中古車店は車両の所有者に登録申請を頼まれ、1年近くかけて書類をそろえ、審査を受けたという。店主は取材に「問題なく登録できた。何ら法律違反はない」と語った。
記者は今年3月、逆輸入後に登録されたもう1両の高機動車を長野県内で確認した。
車両は、所有者の男性が経営する自動車関連会社の敷地内にあった。右ハンドルで、国内のオークションで購入した際、通関証明書から輸入車とわかったという。業者に頼んで20年5月に北陸信越運輸局長野運輸支局で登録された。
男性は「購入後にタイヤとほろを替えた。ほかはフレームや内部まで本物の高機動車だ」と言った。記者が助手席に座り、男性がキーを回すと野太いエンジン音が響き、突き上げるような振動が伝わってきた。
ハンドルを左へいっぱいに切ると、敷地内を全長約5メートルの大きな車体が旋回した。男性は「小回りが利くのは『四輪 操舵 』のおかげ」と話した。後輪が前輪と逆方向に曲がる、高機動車の特徴の一つだ。
軍用車然とした車体は人目を引く。敷地前の市道を行き交う車が速度を落とし、ドライバーが見入る姿が見えた。
安全保障の大きな懸念
軍事アナリストの小川和久・静岡県立大特任教授の話「逆輸入によって自衛隊と誤認させる車が存在すれば、安全保障上の大きな懸念だ。税関を通過し、運輸支局がナンバーを交付したことからも、再発を防ぐには、省庁の縦割りに陥らない法整備を行うべきだ」