新型コロナウイルスワクチンの「秋接種」が20日から始まった。期限は来年3月31日までで、生後6カ月以上で初回接種を終えた全ての人が対象。全世代が無料で打てる最後の機会となる可能性がある。足元では流行「第9波」の渦中にあり、今後、新たな波の到来も懸念される中、副反応などデメリットとの兼ね合いの中でおのおのが判断する必要がありそうだ。(力武崇樹、中村翔樹)
お客さまのためにも
東京都が都庁本庁舎(新宿区)に開設した大規模接種会場には20日、事前に予約した都民らが接種を受けに訪れた。旅行の添乗員を務める練馬区の長山延広さん(38)は今回が5回目の接種。国内外の旅行や出張が増えているといい、「まずは自分が接種することで同行されるお客さまが感染しない環境をつくりたい」と話した。
今回使われるのは、オミクロン株の「XBB・1・5」に対応したワクチン。国内で主流となりつつある同じXBB系統の「EG・5・1」を含めて効果が確認されている。医療機関などでの個別接種が中心となる。
予防接種法上の「特例臨時接種」に位置付けられ、費用は全額が国費負担だが、厚生労働省は年度内で特例接種を終了することを決定。来年度以降は自己負担が生じるケースもある「定期接種」への変更を視野に、検討が進められている。
主目的は重症化予防
ワクチン接種の主眼は「重症化予防」にシフトしており、政府は今回も高齢者ら重症化リスクの高い人に積極的な接種を呼びかける。
令和3年夏~秋の第5波では、従来株より症状を引き起こす力が強いデルタ株が主流で、肺炎などを発症するケースが急増して医療提供体制も逼迫(ひっぱく)。発症予防を念頭に、幅広い世代に接種が求められた。
一方、現状のオミクロン株は伝播(でんぱ)性が高いものの、重症化率や致死率は低下。自然感染した後にできる抗体を持つ人の割合が増えたことも要因とされ、65歳未満で入院するケースはまれになった。今年5月からの「春接種」で、65歳以上の高齢者や基礎疾患がある人らに対象を限定したのはそうした背景がある。
第10波を見越して
内閣官房によると、コロナワクチン接種を3回した人の割合は、9月19日公表時点で全人口の約70%。およそ8700万人に達しているが、このうち4回目まで終えたのは、5900万人まで落ち込む。これまでに最大6回(高リスク者ら以外は最大4回)の接種が可能だが、回を追うごとに人数は減っている。
順天堂大大学院の堀賢教授(感染制御科学)は、「感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ5類へ移行した今、ワクチン接種の在り方も、『できるだけ多くの人が打つ』というフェーズから、『必要な人が打つ』という段階に移った」と指摘する。
直近の感染状況では、1定点医療機関当たりの感染者数が20人を超え、第8波(昨冬~今春)のピークに迫る。堀氏は「これまでの周期を考えれば、来春前後に第10波の到来が想定される。接種の重症化予防効果は1年程度で減衰するとされており、若い世代でも前回から時間が経過した人にはメリットがある」と説明。「個々人が接種の必要性を適宜、判断してほしい」としている。