市民を襲撃した4事件で殺人罪などに問われた特定危険指定暴力団工藤会(本部・北九州市)トップで総裁の野村悟(76)、ナンバー2で会長の田上不美夫(67)両被告の控訴審第2回公判が27日、福岡高裁であり、両被告の被告人質問が行われた。野村被告は「何も知らなかった」と1審に続いて無罪を主張し、田上被告は2事件の独断指示を認めた。野村被告は同会を脱退する意向を、田上被告は会長職を退く考えを示した。
4事件は〈1〉元漁協組合長射殺(1998年)〈2〉福岡県警の元警部銃撃(2012年)〈3〉看護師刺傷(13年)と〈4〉歯科医師刺傷(14年)の各事件。1審判決は4事件とも野村被告が首謀者と認め、野村被告に死刑、田上被告に無期懲役を言い渡した。
この日、補聴器を装着し、証言台前に座った野村被告に対する弁護側からの質問は〈1〉の事件について集中。検察側は漁協の利権を狙った事件と主張しているが、「当時、賭博で1日に最大2億円を稼いでいた」などとして事件を起こす動機がないと強調した。〈3〉と〈4〉の2事件への関与を認めた田上被告について問われると、「私のことを思いすぎる人。すまんなと」と話した。1審で死刑判決を受けた直後に裁判長に「全然公正じゃない。生涯後悔するぞ」などと発言したことについては「申し訳ない」としたうえで、「公正な判断をお願いしたい」と述べた。
一方、1審で「会ったことはない」と説明していた元漁協組合長については「会食したことがあるかもしれない」と変遷もみられ、検察側に理由を問われると、「わからない」などと繰り返した。また、野村被告は「総裁は隠居した身で元々なくてもいい職。総裁を辞め、会との関係を断ち切る」と語気を強めた。
田上被告は被告人質問で〈3〉と〈4〉の2事件について「自分が傷つけるよう指示した」と関与を認めた。動機について〈3〉は「陰部の脱毛でやけどし、からかわれたと聞いた。とぼけたおばはんで、恥ずかしい思いをしたらいいと思った」、〈4〉は歯科医師の父親が幹部を務める漁協の人事を巡って不満があり、「家族を痛めつけようと思った」と供述。被害者2人には「申し訳ない」と謝罪した。
田上被告は1審の全面無罪主張が一転した理由について「総裁は父親のような存在で尊敬している。何も知らなかったのに死刑になり、本当のことを言おうと思った」と説明。「正直言って後悔しているし、自分は獄中死すると思う」として会長職から退くと述べた。