海上自衛隊が調達を計画した次世代の護衛艦「新型FFM」。既存のもがみ型護衛艦もFFMの名で設計・調達されましたが、何が違うのでしょうか。一見すると外観こそ酷似しているものの、性能は似て非なるものになりそうです。
1番艦&2番艦は2028年の就役を予定
防衛省は2024年度概算要求で、新型FFMの建造費として2隻分1747億円を計上しました。同艦は、もがみ型護衛艦の改良型で、計12隻が整備される予定であり、1番艦と2番艦は2028年度中の就役を目指しています。
基準排水量は4500トン(防衛装備庁発表では4880トン)のため、現用のむらさめ型護衛艦(排水量4550トン)とほぼ同サイズといえるでしょう。なお、敵の反撃が来ない超遠距離から攻撃可能な「スタンド・オフ・ミサイル」として開発が進む、「12式地対艦誘導弾(SSM)能力向上型」の搭載も想定するなど、従来FFM(もがみ型護衛艦)と比べて格段に攻撃能力が強化されているのも特徴です。
そもそもFFMは「Frigate Multi-purpose/Mine-warfare」の略で、日本語に訳すと「機雷戦/多用途フリゲート」となります。従来のDD(汎用護衛艦)やDDG(ミサイル護衛艦)などとは異なる「コンパクト化」「省人化」「多機能化」の3つをコンセプトにした新しいタイプの護衛艦として計画されました。
防衛省の計画では、もがみ型が12隻、新型FFMが12隻の計24隻が調達予定となっています。
当初、もがみ型は三菱重工業が主契約者として長崎造船所で、三井E&S造船が下請負者として玉野艦船工場(現・三菱重工マリタイムシステムズ)で建造を行うことになっていました。その後、造船企業の再編によって、現在はすべて三菱重工グループが建造を手掛けています。すでに7番艦の「によど」まで進水しており、年内には5番艦「やはぎ」が就役する予定です。
FFMというよりも汎用DDかも
新型FFMは、三菱重工が主契約者として設計と建造を担い、JMU(ジャパンマリンユナイテッド)が下請負者として一部の建造を行うことが今年8月に公表されました。2023年現在、日本国内における水上艦の新造ヤードは三菱重工長崎造船所、三菱重工マリタイムシステムズ玉野本社工場、JMU横浜事業所磯子工場の3か所しかありません。そのため、同じく建造が決まったイージス・システム搭載艦や新型補給艦、哨戒艦などと共に建造・整備が進められます。
さて、新型FFMはレーダー反射面積(RCS)を抑えた高いステルス性を持つ船体デザインや、「ユニコーン」の通称で呼ばれる円筒型の複合通信空中線(United Complex Radio Antenna)を採用するなど、一見すると既存のもがみ型と多くの共通点が見受けられます。しかし細部を見てみると、より護衛艦として能力が高められていることがわかります。
まず基準排水量は、もがみ型の3900トンに対して、新型FFMは4500トン(防衛省)ないし4880トン(防衛装備庁)です。船体も、もがみ型は全長133.0m、全幅16.3mですが、新型FFMは全長約142m、全幅約17mと大型化しています。近しい大きさの護衛艦としては、基準排水量4550トン、長さ151m、全幅17.4mのむらさめ型が比較しやすいでしょう。
武装に関しても、新型FFMには射程1000kmを超えるとされる前出の新型ミサイル「12式地対艦誘導弾(SSM)能力向上型」や新艦対空誘導弾が搭載されます。さらに対潜機能も探知能力が向上した次世代ソナーシステムを採用し、平時の警戒監視や有事における対潜戦などの能力向上を図っている模様です。
これに加えて、洋上監視用の小型UAV(無人航空機)や、USV(水上無人機)、UUV(無人水中航走体)も装備するとのこと。もしかしたら、輸送用無人機を用いた物資補給も行われるかもしれません。
インド洋、果てはソマリア沖にも派遣されるかも
昨年(2022年)12月に発表された現在の「防衛力整備計画」では、艦艇と連携して効果的に各種作戦運用が可能なUSVと、水中優勢を獲得するためのUUVを、それぞれ整備することが明記されています。それに伴い、2024年度概算要求では国産USVの開発促進を図るため、各国で運用実績のあるUSVを供試器材として取得し試験的に運用する費用として、約160億円が盛り込まれています。
ちなみに新型FFMの乗員は、もがみ型と同じ約90人。すでにもがみ型で各種コンソールを集約した統合ブリッジシステムや、1人で出入港が行えるシステム操艦装置の採用、円形のモニターに囲まれ機関制御から武器管制、ソナー、操艦などを集約したCIC(戦闘指揮所)を設置するなど行われており、艦のオペレーションについて徹底的に省人化が図られています。
このような能力を持つ新型FFMは、既存のもがみ型とは似て非なる護衛艦になりそうです。船体サイズや搭載武装などを鑑みると、老朽化が進むあさぎり型やむらさめ型といった汎用護衛艦がこれまで担っていた、日本周辺海域の防衛警備や海上交通の安全確保、国際平和協力活動、海賊対処活動といった多様な任務を行っていくことが期待されているのではないでしょうか。
ひょっとしたら、FFMとはいっても、そのMが指し示すなかには「機雷敷設」は入っていても、「機雷掃討(掃海)」は想定されていないのかもしれません。