厚生労働省の専門部会は21日、アルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」(商品名レケンビ)の製造販売の薬事承認について了承した。レカネマブは、製薬大手「エーザイ」と米製薬会社「バイオジェン」が開発。承認されれば国内では、病気の原因と考えられている脳内の物質に直接働きかけて取り除く初めての薬となる。
近く厚労相が承認する見通し。薬価(薬の公定価格)を決める議論を経て、年内にも実用化される可能性がある。
アルツハイマー病は進行性の病気で、認知症の約7割を占める。神経細胞を壊す異常なたんぱく質「アミロイドベータ(Aβ)」が脳内にたまり、神経細胞が徐々に死滅して思考や記憶の機能が損なわれると考えられている。
レカネマブは、体内の免疫反応を利用してAβを取り除いて病気の進行を遅らせる効果が期待される。壊れた神経細胞は修復できないので、根治薬ではない。
投与の対象は、脳内にAβの蓄積が確認されているアルツハイマー病患者で認知症の症状が軽度の人と、その予備軍となる軽度認知障害(MCI)の人。既に症状が進行した患者は対象から外れる。
エーザイは、2025年以降にMCIの人と早期アルツハイマー病の患者が、合わせて約600万人で推移していくと見ている。
エーザイなどが実施した臨床試験(治験)では、約1800人を二つのグループに分け、片方には2週間に1回レカネマブを、もう片方には偽薬を投与した。1年半後の症状の悪化状況を比べると、レカネマブを投与した患者は悪化を27%抑えられたという結果が得られた。
ただ投与した約2割の患者に、脳の小さな出血や浮腫(むくみ)などの副作用も確認された。
この日の専門部会は非公開で午後6~8時で予定されていたが、終わったのは午後9時半ごろだった。厚労省によると、安全な投与の仕方に関して多くの意見が出されたという。
委員からは「脳に副作用が出ているかどうかをMRI(磁気共鳴画像化装置)の画像で確かめられるよう、医師は画像を読む訓練をすべきだ」などと慎重な使い方を求める声が上がった。
エーザイは今年1月、厚労省に承認手続きを申請した。「優先審査」の制度が適用され、通常は1年程度かかる期間が短縮された。この制度は、重い病気を治療する医薬品で、既存のものより有効性や安全性が明らかに優れている場合に適用される。
エーザイは、レカネマブが実際に投与されるのは、30年ごろにMCIの人または早期アルツハイマー病の患者の1%(約6万人)になると推計する。
レカネマブを巡っては、米食品医薬品局(FDA)が1月に仮免許に相当する「迅速承認」を、7月には「本承認」をしていた。米国内では既に販売されていて、標準的な価格は年間で2万6500ドル(約390万円)という。
一方、専門部会はこの日、レカネマブを投与する患者かどうか、PET(陽電子放射断層撮影)検査で調べる際に使われる診断薬(日本メジフィジックスの「ビザミル」と、PDRファーマの「アミヴィッド」)についても議論し、承認内容の一部変更を認めた。
これにより、MCIの人などにもこれらの薬が使えるようになる。
認知症患者らを支援する公益社団法人「認知症の人と家族の会」の鎌田松代(まつよ)代表理事は「認知症の本人や家族にとって、レカネマブは大きな道を開くものになると思う。ただ、対象は早期のアルツハイマー病に限定されていて、製薬会社は他の薬の開発も続けてほしい。薬だけでなく、認知症に対して理解のある地域作りも欠かせない」と話した。【添島香苗、村田拓也、神足俊輔】