埼玉県の自民党県議団は10日、小学校3年生以下の子供の放置を禁止する「埼玉県虐待禁止条例改正案」の取り下げることを決定した。改正案ではさまざまな具体的事例を虐待として認定しており、なかには「おつかい禁止」の項目もあった。このトンデモ条例案が成立していれば、あの〝名物番組〟も影響を受ける可能性があった。
埼玉県自民党県議団の田村琢実団長は10日に会見を行い、改正案の取り下げを発表。その上で「私の説明不足によって乖離(かいり)を生んでしまい、理解を得られる状況ではないと判断した。県民に心からお詫びする」と釈明した。
埼玉県虐待禁止条例改正案は、近年、子供の置き去りなどで痛ましい事故が相次いでいることを受けて県議団が提出。改正案では小学3年以下について、「短時間でも留守番させる」「子供だけで公園で遊ばせる」「お使いを頼む」「子供だけで登下校させる」などの行為を虐待と認定。場合によっては子供を残してゴミ出しすることも虐待行為と見なし、違反を見つけた場合は通報義務を課していた。
しかし、あまりにも現実的ではない改正案に埼玉県民だけではなく、全国の育児世代から「現実に即していない」「これじゃ働けない」といった批判が殺到。13日の県議会本会議で採決される予定だったが、SNSでは映画「翔んで埼玉」をもじって「トンデモ埼玉」などと揶揄された。
万が一、取り下げることなく、成立でもしていたら大変なことになっていた。わかりやすい例が日本テレビ系「はじめてのおつかい」だ。同局関係者がこう話す。
「幼い子供がお使いする人気番組だが、いくら万全の態勢を期して撮影しても、埼玉県ではこれが〝放置〟と見なされれば条例違反でロケ自体ができなくなる」
同番組はスタッフ10人ほどが子供を遠巻きに見て、行く先の安全を確保しながら撮影しているという。しかし、改正案では「安全を確保できる」「すぐに駆け付けられる」の2点が確保できなければ、短時間であっても虐待にあたると規定されている。ロケが違反か否か解釈の分かれるところだ。
では、法律の専門家は同改正案をどう見ているのか? 弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士はこう解説する。
「改正案が虐待として禁止している『放置』が、かなり広い範囲で用いられており、具体的に何が『放置』に当たるのか判然としないのは問題です。『はじめてのおつかい』についても、スタッフが遠巻きに撮影している場合は『放置』したと言い得る余地があり、公道という危険の多い場所であれば、それなりに近い場所にいなければ『放置』と判断される可能性も高いのではないか」
とはいえ、近年は子供の置き去り事故が相次いでいるのも事実。欧米並みに厳しい条例を作りたかった県議団の考えも理解できなくはないが、正木弁護士は「熟慮が足りていない部分が散見されるので、取り下げは妥当ではないか」との見解を示した。