中古車販売大手ビッグモーターが車検や整備で不正をしたとして、国土交通省は13日、立ち入り検査をした34事業場に対し、道路運送車両法に基づく行政処分を科すと発表した。34カ所全てで整備を行うための国の認証を停止させる。うち12カ所は最も重い処分である民間車検場の指定取り消しとする。
国交省によると、検査によって「不正車検」を16カ所で確認したほか、10カ所では同社が検査に対し虚偽の説明をしたと認定した。
同社を巡る一連の問題が表面化して以降、監督官庁による行政処分は初めて。各地方運輸局が20日、同社から説明を聞く「聴聞」を開催し、処分を確定させる。同法に基づく一斉処分としては異例の規模となる。
同社は全国で250店以上を展開。店舗併設の整備工場など135事業場で、民間車検場の指定や整備に必要な認証を国から受けている。このうち24都道府県の34カ所に対し、国交省は7月に抜き打ちで立ち入り検査を実施。残る101カ所も引き続き調べている。
国交省は34カ所全てで点検や整備にかかる料金を過剰に請求した違反を確認。売り上げを増やすため、顧客の車にわざと傷を付けて修理の範囲を広げたとみられ、34カ所について、整備事業に必要な国の認証を停止(90~10日)とする。
スピードメーターや排ガスなどの必要な検査を一部実施しないまま車検に合格させる「不正車検」も16カ所で確認した。このため、民間車検場の指定を受けた32カ所のうち、12カ所を指定取り消し、11カ所を業務停止(180~20日)、9カ所を文書警告とする。
また、10カ所では抜き打ち検査に「違反はない」などと虚偽の説明をしたと認定。14カ所では整備記録簿の虚偽記載、2カ所では無資格者による検査も確認した。国交省は、不正に関与した14カ所の検査員計24人を解任する。
ビッグモーターは13日、「処分案の内容を真摯(しんし)に受け止め、再発防止に努める」とコメントした。
同社を巡っては、保険金不正請求に絡んで損害保険ジャパンとの緊密な関係が浮かび、金融庁が両社に立ち入り検査を実施。店舗前の街路樹が枯れた問題では各地の警察が器物損壊容疑で捜査している。【内橋寿明、大場弘行】
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国土交通省が厳正な処分案を示したのは、ビッグモーターによる不正が顧客や保険会社の信頼を裏切っただけでなく、自動車の安全を脅かす悪質な行為だと判断したためだ。
同社を巡っては、損害保険金の水増し請求や街路樹の枯死、下請け業者への圧力など広範に不正が指摘されている。それぞれ監督官庁や警察が調べているが、国交省は、車の安全確保を目的とした道路運送車両法に照らしてどのような不正があるか解明にあたった。
その結果、検査の一部を実施せずに車検を通す「不正車検」や整備記録簿への虚偽記載など、安全に関わる違反が発覚。同社の検査員の知識不足も露呈した。こうした不正の背景には、売り上げのノルマ達成を強く迫る企業風土があったとされ、安全法規への意識の低さが浮き彫りになった。
整備不良に起因する車の事故は毎年発生し、大型車では車輪脱落や火災といった深刻な事例もある。今回の処分案は、利益を優先して車検や点検・整備を軽視したことに強く警鐘を鳴らしたといえる。【内橋寿明】