神奈川県内の「心霊スポット」を巡るツアーが人気を集めるなか、廃虚化したホテルなどに肝試し目的で不法侵入するケースも後を絶たない。ツアー事業者は「ルールを守りながら楽しんでほしい」と呼びかけるとともに、県警は違法行為を防ぐため、鑑識活動を通して心霊現象を否定する動画も公開している。(日下翔己、佐藤官弘)
「お化け屋敷ではございません。ガチです」
タクシー会社の三和交通(横浜市)はこうPRし、7~8月に横浜市や鎌倉市など県内外計5コースで、運転手がガイドを務める心霊スポットツアーを企画した。9回目の今年は計1170組が応募して倍率は29倍。女性の参加者も多かったという。同社は「抽選のプレミアム感も人気の背景にある」とみる。
横浜市内のツアー(3時間で税込み2万4000円)では、新横浜駅からタクシーに乗ると、怪談話がある踏切や城跡などを巡回。懐中電灯を手にトンネルや峠を歩いて写真撮影もした。毎回のように雨が降るというゴール地点では、突然の雨に打たれた。「不可解なことを心霊現象だと信じるかは、あなた次第――」。運転手は最後に言った。
ツアー中は、いずれも交通ルールなどの順守が徹底された。同社統轄本部広報担当の小関正和さん(30)は「住民の方に迷惑にならないように配慮しながら、継続していきたい」と語る。
廃虚への不法侵入を警戒
都筑署によると、横浜市都筑区内の廃虚化したホテルでは2020年、SNS上に「殺人事件があった」「女性の霊が出る」などの書き込みがあり、肝試しと称した不法侵入や落書きが相次いだ。同署は50人近くに対して口頭注意などをしていたという。
同署は捜査員の鑑識活動を通し、「血が塗られた部屋の手形は落書き」など、うわさや心霊現象は「事実無根」とする動画を投稿サイトで配信。ただ、今年も侵入したとして、9月までに10人ほどが軽犯罪法違反(禁止場所立ち入り)の疑いで捜査の対象となり、複数の男が書類送検された。「深夜に騒ぎ声がする」など近隣住民からの苦情も多い。
建物は老朽化し、天井や壁などが崩壊する危険性もあるという。同署は「絶対に立ち入らないでほしい」と注意を促すとともに、周辺の警戒を続ける。
なぜ、心霊スポットは人を引きつけるのか。県立広島大学の向居暁教授(認知心理学)は「人間には怖いものに近づくべきではないとの感情がある一方、安全な場所から原因を知りたいとの好奇心も持つ。心霊現象の可能性に興味を抱いてしまうのだろう」と分析している。